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MBSRのルーツ“東洋哲学”に立ち返ったマインドフルネス法

 

2013年3月15日

特定非営利活動法人 人間性探究研究所 理事長

北山喜与

 

2012年秋のカバット・ジン博士来日により、マインドフルネス法の急激な普及が予想されます。

 

素晴らしいと思う反面、皮相的で本質に至らないものに変質することも危惧されます。

 

 

そこで私は、マインドフルネス法の本質を歪めないためにも、今一度MBSRのルーツである“東洋哲学”(道元哲学やその他の仏教哲学)に立ち返り、その真髄を習う。そこから、その真髄をベースとした様々な専門分野に最適なマインドフルネス・プログラムが開発・普及されるべきだと考えるに至りました。

 

 

 

1.マインドトーク洞察法

私は、1990年ごろ、長年の坐禅への取り組みから得た体験を通して、坐禅の智慧を一般化したプログラム「マインドトーク洞察法」を考案しました。

 

 

このプログラムは、禅堂での「坐禅中の心の置き所(静中の功夫)」、「経行」、「作務」から触発されたもので、老師のご指導に基づくものも全て組み入れました。

 

トイレで用を足す時はその事に成り切る、食事の時は手の上げ下ろしから口の中の動きに至るまで全ての行為そのものに成り切る、廊下を歩く時はただ一歩に成り切る、茶碗を洗う時はただ茶碗を持ち只洗うに成り切る、雑巾がけは只ひと拭きに成り切る、庭掃除は竹箒による只ひと掃き、草むしりは只引き抜くに成り切る・・・・・。

 

 

全ての行為そのものに「只成り切る」ためのプログラムに行き着いたのです。

 

 

 

2.マインドフルネス法

その後、知人からカバット・ジン博士の「マインドフルネス法」の存在を知り、あまりにも道元マニュアル(禅道場の修行方法の一つ)に似ていることに驚きました。

 

すでに科学の総本山である病院で実践され効果を上げているという事実にも、衝撃を受けました。

 

 

すぐにカバット・ジン博士にお会いする機会を得て意気投合し、部外秘であるはずの「MINDFULNESS-BASED STRESS REDUCTION PROFESSIONAL TRAINING RESOURCE MANUAL」を頂戴する幸運にも恵まれました。

 

その内容は、深く読み込めば読み込むほど、道元哲学のエッセンスに根幹を持つものでした(蛇足ながら、2012年11月の来日講演会でも、カバット・ジン博士は“道元”を幾度も引用し、“道元”への熱い思いを語っておられました。)。

 

 

 

3.個々の現場に適合したマインドフルネス・プログラム

早速日本でも実践したい、と思う一方、マサチューセッツの病院での、末期がん患者等を対象とした取り組み方をそのままに日本に当てはめるには疑問がありました。

 

日々の事柄に忙殺されている現代人に対して、プログラムに取り組んでいく意欲、動機をどう駆り立てていくかが不安だったからです。

 

 

しかし、迷いながらも試みた実験的取り組み「企業管理職研修プログラム」、「突発的な事故や病気による後遺症克服プログラム」、「乳幼児虐待防止プログラム」、「不登校児対応プログラム」は、それぞれの現場に適合したマインドフルネス・プログラムとして期待以上の好結果を引き出しました。

 

 

また、11年間の大学での取り組みは、マインドフルネスをより一層深化させることにも繋がりました。

 

「思春期の学生たちへのアイデンティティーの確立や自己変革」をテーマに掲げたマインドフルネス・プログラムとして、人間教育独自の要素を付加させることにより、高い人間性獲得に向けての教育プログラムとして効力を発揮したのです。

 

学生達への取り組みから得たことは「人は変わることができる」という確信を持つことができたことです。

 

 

これら個々の現場で効力のあったマインドフルネス・プログラムは、全て、MBSRのルーツ“東洋哲学(道元哲学やその他の仏教哲学)”に一旦立ち返ることから導かれたものでした。

 

 

 

4.心が脳を変える時代――人はどのようにも変わることができる――

脳神経科学の発展に伴い「心が脳を変える時代」が到来したといわれます。

 

 

「今この瞬間も、あなたの脳は“ざわざわ”と変化し続けている。自分がどのような行動を取り、何を感じ、何を考えるかに依存して、脳はどんな方向にも変わることができるのだ」と茂木健一郎氏は云います。

 

また、「“いかに自分の心を洞察することができるか”が脳の可塑性を促していくための最大のポイントとなる」という脳神経科学者の指摘もあります。

 

これらは、古めかしいと思われていた坐禅や神秘的な行為と思われてきた瞑想への取り組みを、科学が後押しする時代がやってきたという実感をもたらします。

 

改めて、マインドフルネス法は“心が脳を変える”ことに最も近いプログラムではないかと確信しました。

 

 

いま社会では、いじめや虐待に代表される問題が山積する中で、根本的対策を見いだせずにいます。

 

そこで、私はそのマインドフルネス法を皮相的に陥らせないためにも、新たに、そのルーツである“東洋哲学(道元哲学やその他の仏教哲学)”から“本質”を抽出し、現代に蘇らせる。

 

 

その上で、その本質をベースに「マインドフルネス○○○プログラム」といったような、様々な専門分野の現場に適合した日本固有のマインドフルネス・プログラムを開発し、定着させていくことが急務であると考えます。

 

心理・医療に止まらず、教育、福祉、文化、スポーツ等、様々な現場に適合したプログラムが立ち上げられ、社会に役立っていくことを支援したい、と改めて強く感じるに至ったのです。

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